スターダストは、俺のもの。
世の中で一番多く演奏され、聴かれる曲は何か?という話しを以前に読んだことがある。それは「White Christmas」なんだそうだ。
確かにクリスマス近く、12月に入ると世界中で、TVやラジオの放送からさらにコンサートやライブはもちろん、デパートや商店街のBGMまで含めて四六時中耳にする。たった1ヶ月弱でその回数たるや夥しい数であることは確かである。
それには叶わないかも知れないが、ジャズ(スイング)に関わっている者からみると、年間を通じて演奏する機会の多い曲と言うと、「Stardust」ではないだろうか。コンサートやライブ、特にラウンジなどでの演奏やヴォーカルには必ずといっていいくらい入れる。CDにも然りである。
こうしょっちゅう演奏されるということは、誰もが知っているし、また好きだということだろう。ジャズに限らずポップスの歌い手も、いや美空ひばりもシャープス&フラッツをバックに歌っている(「ナット・キング・コールをしのんでひばりジャズを歌う」)。これがまたいい。ここまでくると、ジャズもポップスも、演歌もないらしい。
作曲したホーギー・カーマイケル(1899~1981年)が、母校のインディアナ大学の構内で懐かしい学生生活やかつての恋人ドロシー・ケイトのことなどを想い出しながら星空を眺めていて、無意識なうちにあのメロディーを口笛で吹いていたとか。その音の流れに自ら感激したのでしょう、その場でメモって近くのカフェのピアノを借りて仕上げたんだそうだ。但しその時の曲名が「Barnyard Shuffle」(納屋の庭シャッフル)。シャッフルというから、テンポの速いラグタイムの曲として書かれたらしい。
その後「Stardust」と改名され、さらにミッチェル・パリッシュによって歌詞が付けられたりして、自分でも演奏し、他のプレイヤーも手がけたが長いこと鳴かず飛ばずで、1941年クラリネットのアーティー・ショーがスローテンポで吹き込み大ヒットを飛ばした。以後この「Stardust」はスローな曲として一般的になったという。
ヴァース(序奏部)もコーラス(テーマ部)もロマンチックで、そのタイトル通り夜空に広がる、まさに大小さまざま満天の星のきらめきそのものである。ジャンルを超えて、誰もが好きになる要素を備えている。

その昔、日曜夕方6時半から「シャボン玉ホリデー」(1961~1972年日本テレビ)というバラエティー番組があって、そのエンディングにクレイジーキャッツのハナ肇が絡みながらザ・ピーナッツがその「Stardust」を歌う。
歌い終わってカメラがパン・アップ(上へ)して街灯越しにギターを弾く男のシルエット(犬塚 弘)があり、ギターでの「Stardust」が流れる(このギターはロス・インディオス・タバハラスだったそうだ)。
このエンディングがたまらなくよかった。この「Stardust」を聴くと日曜の終わりをつくづく思い知らされ、何ともいえない寂寥感がこみ上げてきたことを憶えている。
同じ頃、NET(現テレビ朝日)に♪ララミー!ララミー!♪で始まる「ララミー牧場」(1960~1963年)という大人気の西部劇があった。主役の二枚目ロバート・フラーの人気は凄まじかった。
この「ララミー牧場」にホーギー・カーマイケルが爺さん役で出演していた。しかし、当時はそんなことは夢にも思わず「ララミー牧場」を観ていた。残念だった。
残念といえば、これも後になって知ったことだが、ホーギー・カーマイケルが来日した時、宿泊先の帝国ホテルで「シャボン玉ホリデー」を観て、エンディングの「Stardust」に驚いて番組に興味を持ったことから、出演することになったという。
そこで1961年11月26日の「シャボン玉ホリデー」に特別出演したんだそうだ。これを観ていないのは返す返すも残念である。
ホーギー・カーマイケルといえば「Stardust」に限らず、「Georgia On My Mind」(我が心のジョージア)、「Rockin’ Chair」、「Skylark」などヒット曲を幾つも書いて、印税だけでも大変な稼ぎであったろうに、まだ役者で稼ごうとしていたんだろうか。よほど役者が好きだったに違いない。
Jazzy Fake Tales①
ホーギー・カーマイケルが「ララミー牧場」の撮影を終えて、
暮れなずむ牧場のハウスの入り口でロッキング・チェアーを揺すりながら
うまそうにパイプをくゆらせて満天の星空を眺めていた。
それを見た流れ者ジェス・ハーパー役のロバート・フラーが、
「さすが、カーマイケルさん!
そうやっている姿はさすが様になってますねぇ!
風景に溶け込んで、まるで誂えたようだ!」と感心すると、
「うん、そうねぇ‥まぁ“ロッキング・チェア”も“スターダスト”も
俺のモンだからね!」
ウディ・アレンの映画に「ギター弾きの恋」(1999年、原題「Sweet & Lowdown」)というのがある。
ジャンゴ・ラインハルトが一番で、自分は二番目だと豪語する架空の天才的なギターリスト エメット・レイ(ショーン・ペン)の破滅的な恋と半生を描いた映画である。
この主人公エメット・レイのギターがまた滅茶苦茶いい。実際の演奏はハワード・アルデンだから良くないわけがないのだが、またエメット・レイに扮するショーン・ペンのギターの弾き方が実にいい。
そして終始演奏やバックに流れるナンバーが古いところのスタンダード物がぞろぞろでこれまた垂涎物である。まさにジャズ好きなウディ・アレンらしい懲りようで、細かい演出である。
細かい演出と言えば、この天才的なギターリスト エメット・レイには盗癖があるという設定がまた面白い。友人の家でちょいと灰皿を失敬して懐に入れ、外へ出て捨ててしまうというように必要があって盗むというのではない。(だから盗癖なのである)
映画の中でジャズ評論家のナット・ヘンホフ(実名出演)が、「ホーギー・カーマイケルはエメットに目覚まし時計を盗まれた!」と言っている。そんな虚構と実際との境が分からないような洒落心がウディ・アレンの面白さと言えよう。

Jazzy Fake Tales②
ホーギー・カーマイケルが毎晩演奏時間に遅れて来るので、クラブのマネージャーが━
「カーマイケルさんは、どうして毎日遅刻をするんでしょうか?」
とメンバーの一人に聞くと、
「あれ?キミ、映画の“ギター弾きの恋”、観てないの!?
あの映画ん中で盗癖のあるギターのエメット・レイ(ショーン・ペン)に目覚まし時計を盗まれたんだよ!
ヤツはそれから時間が分からなくなったんだ!」
Jazzy Fake Tales③
ホーギー・カーマイケルがあまり遅刻をするもんだから、クラブのオーナーが一つ時計をプレゼントしようと、 今後のこともあるからと街の時計屋の特別ショーケースの中にある200ドルもする腕時計をプレゼントした。
ところが時計をプレゼントした次の日も、やはりいつものように30分も遅刻した。
「カーマイケルさん、どうしました?左手に昨日プレゼントした時計着けてるじゃないですか!
それでも遅刻ですか!?」
「いやあ、あまりにも素晴らしい時計なんで、一日中眺めていても飽きないんだ!
腕に嵌めたり外したりしてじっくり眺めていたら、時間を見るのを忘れていた!」
ホーギー・カーマイケルは、「Stardust」にしても「ララミー牧場」にしても、遠い昔とはいえ自分の生活の中のシーンに生きていたから、特別な想いがして堪らない。
特に「Stardust」は中学時代、故郷の天竜川の辺で夕焼けの中にキラリと光る宵の明星を見ながら、トランペットで吹いたことが忘れられない。
(写真上:Stardustの演奏ばかりを収めた「Stardust」ユニバーサル クラシック&ジャズUCCU-1029)
(写真下:クラリネット・プレイヤー ウッディ・アレンのCD「WILD MAN BLUES」。BMGジャパンBVCJ- 31009 「ギター弾きの恋」とは関係ありません。)
確かにクリスマス近く、12月に入ると世界中で、TVやラジオの放送からさらにコンサートやライブはもちろん、デパートや商店街のBGMまで含めて四六時中耳にする。たった1ヶ月弱でその回数たるや夥しい数であることは確かである。
それには叶わないかも知れないが、ジャズ(スイング)に関わっている者からみると、年間を通じて演奏する機会の多い曲と言うと、「Stardust」ではないだろうか。コンサートやライブ、特にラウンジなどでの演奏やヴォーカルには必ずといっていいくらい入れる。CDにも然りである。
こうしょっちゅう演奏されるということは、誰もが知っているし、また好きだということだろう。ジャズに限らずポップスの歌い手も、いや美空ひばりもシャープス&フラッツをバックに歌っている(「ナット・キング・コールをしのんでひばりジャズを歌う」)。これがまたいい。ここまでくると、ジャズもポップスも、演歌もないらしい。
作曲したホーギー・カーマイケル(1899~1981年)が、母校のインディアナ大学の構内で懐かしい学生生活やかつての恋人ドロシー・ケイトのことなどを想い出しながら星空を眺めていて、無意識なうちにあのメロディーを口笛で吹いていたとか。その音の流れに自ら感激したのでしょう、その場でメモって近くのカフェのピアノを借りて仕上げたんだそうだ。但しその時の曲名が「Barnyard Shuffle」(納屋の庭シャッフル)。シャッフルというから、テンポの速いラグタイムの曲として書かれたらしい。
その後「Stardust」と改名され、さらにミッチェル・パリッシュによって歌詞が付けられたりして、自分でも演奏し、他のプレイヤーも手がけたが長いこと鳴かず飛ばずで、1941年クラリネットのアーティー・ショーがスローテンポで吹き込み大ヒットを飛ばした。以後この「Stardust」はスローな曲として一般的になったという。
ヴァース(序奏部)もコーラス(テーマ部)もロマンチックで、そのタイトル通り夜空に広がる、まさに大小さまざま満天の星のきらめきそのものである。ジャンルを超えて、誰もが好きになる要素を備えている。

その昔、日曜夕方6時半から「シャボン玉ホリデー」(1961~1972年日本テレビ)というバラエティー番組があって、そのエンディングにクレイジーキャッツのハナ肇が絡みながらザ・ピーナッツがその「Stardust」を歌う。
歌い終わってカメラがパン・アップ(上へ)して街灯越しにギターを弾く男のシルエット(犬塚 弘)があり、ギターでの「Stardust」が流れる(このギターはロス・インディオス・タバハラスだったそうだ)。
このエンディングがたまらなくよかった。この「Stardust」を聴くと日曜の終わりをつくづく思い知らされ、何ともいえない寂寥感がこみ上げてきたことを憶えている。
同じ頃、NET(現テレビ朝日)に♪ララミー!ララミー!♪で始まる「ララミー牧場」(1960~1963年)という大人気の西部劇があった。主役の二枚目ロバート・フラーの人気は凄まじかった。
この「ララミー牧場」にホーギー・カーマイケルが爺さん役で出演していた。しかし、当時はそんなことは夢にも思わず「ララミー牧場」を観ていた。残念だった。
残念といえば、これも後になって知ったことだが、ホーギー・カーマイケルが来日した時、宿泊先の帝国ホテルで「シャボン玉ホリデー」を観て、エンディングの「Stardust」に驚いて番組に興味を持ったことから、出演することになったという。
そこで1961年11月26日の「シャボン玉ホリデー」に特別出演したんだそうだ。これを観ていないのは返す返すも残念である。
ホーギー・カーマイケルといえば「Stardust」に限らず、「Georgia On My Mind」(我が心のジョージア)、「Rockin’ Chair」、「Skylark」などヒット曲を幾つも書いて、印税だけでも大変な稼ぎであったろうに、まだ役者で稼ごうとしていたんだろうか。よほど役者が好きだったに違いない。
Jazzy Fake Tales①
ホーギー・カーマイケルが「ララミー牧場」の撮影を終えて、
暮れなずむ牧場のハウスの入り口でロッキング・チェアーを揺すりながら
うまそうにパイプをくゆらせて満天の星空を眺めていた。
それを見た流れ者ジェス・ハーパー役のロバート・フラーが、
「さすが、カーマイケルさん!
そうやっている姿はさすが様になってますねぇ!
風景に溶け込んで、まるで誂えたようだ!」と感心すると、
「うん、そうねぇ‥まぁ“ロッキング・チェア”も“スターダスト”も
俺のモンだからね!」
ウディ・アレンの映画に「ギター弾きの恋」(1999年、原題「Sweet & Lowdown」)というのがある。
ジャンゴ・ラインハルトが一番で、自分は二番目だと豪語する架空の天才的なギターリスト エメット・レイ(ショーン・ペン)の破滅的な恋と半生を描いた映画である。
この主人公エメット・レイのギターがまた滅茶苦茶いい。実際の演奏はハワード・アルデンだから良くないわけがないのだが、またエメット・レイに扮するショーン・ペンのギターの弾き方が実にいい。
そして終始演奏やバックに流れるナンバーが古いところのスタンダード物がぞろぞろでこれまた垂涎物である。まさにジャズ好きなウディ・アレンらしい懲りようで、細かい演出である。
細かい演出と言えば、この天才的なギターリスト エメット・レイには盗癖があるという設定がまた面白い。友人の家でちょいと灰皿を失敬して懐に入れ、外へ出て捨ててしまうというように必要があって盗むというのではない。(だから盗癖なのである)
映画の中でジャズ評論家のナット・ヘンホフ(実名出演)が、「ホーギー・カーマイケルはエメットに目覚まし時計を盗まれた!」と言っている。そんな虚構と実際との境が分からないような洒落心がウディ・アレンの面白さと言えよう。

Jazzy Fake Tales②
ホーギー・カーマイケルが毎晩演奏時間に遅れて来るので、クラブのマネージャーが━
「カーマイケルさんは、どうして毎日遅刻をするんでしょうか?」
とメンバーの一人に聞くと、
「あれ?キミ、映画の“ギター弾きの恋”、観てないの!?
あの映画ん中で盗癖のあるギターのエメット・レイ(ショーン・ペン)に目覚まし時計を盗まれたんだよ!
ヤツはそれから時間が分からなくなったんだ!」
Jazzy Fake Tales③
ホーギー・カーマイケルがあまり遅刻をするもんだから、クラブのオーナーが一つ時計をプレゼントしようと、 今後のこともあるからと街の時計屋の特別ショーケースの中にある200ドルもする腕時計をプレゼントした。
ところが時計をプレゼントした次の日も、やはりいつものように30分も遅刻した。
「カーマイケルさん、どうしました?左手に昨日プレゼントした時計着けてるじゃないですか!
それでも遅刻ですか!?」
「いやあ、あまりにも素晴らしい時計なんで、一日中眺めていても飽きないんだ!
腕に嵌めたり外したりしてじっくり眺めていたら、時間を見るのを忘れていた!」
ホーギー・カーマイケルは、「Stardust」にしても「ララミー牧場」にしても、遠い昔とはいえ自分の生活の中のシーンに生きていたから、特別な想いがして堪らない。
特に「Stardust」は中学時代、故郷の天竜川の辺で夕焼けの中にキラリと光る宵の明星を見ながら、トランペットで吹いたことが忘れられない。
(写真上:Stardustの演奏ばかりを収めた「Stardust」ユニバーサル クラシック&ジャズUCCU-1029)
(写真下:クラリネット・プレイヤー ウッディ・アレンのCD「WILD MAN BLUES」。BMGジャパンBVCJ- 31009 「ギター弾きの恋」とは関係ありません。)
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