激しい季節
人間暑くなって思考能力が正常に働かなくなると、どうやら昔のことを想い出して頭の中の空間を埋めるものらしい。
昔のことといっても私の場合は、自分が体験したこととは限らない。
私ごときの体験したことなど高が知れているが、それを補うのがしょっちゅう観にいっていた映画や読んだ本である。
つまり私は、特に映画などは感じ入るとあたかも自分が体験したかがごとくに脳裏に刻み込まれてしまうらしい。しかも大抵そこには音楽が伴っている。
この時期頭がボーッとしそうなくらいに暑い日など、特に街を歩いている時などにふと想い出すシーンとメロディがある。
まずイタリア映画の「激しい季節」(1960年、原題「Estate Violenta」、監督ヴァレリオ・ズルリーニ、出演エレオノラ・ロッシ=ドラゴ、ジャン=ルイ・トランティニアン、ジャクリーヌ・ササール)である。
これは高校生の時に、クラリネットの上手い1年上の先輩に勧められて観た映画で、エレオノラ・ロッシ=ドラゴの官能的な美しさと、気だるいアルト・サックスのテーマが忘れられない。
映画の中ではあるパーティで、男性歌手が歌う「Temptation」(歌い手は分からない)で皆が踊っている。
その「Temptation」が終わり、次にアルト・サックスでのジリジリするくらいスローのテーマが流れる。
それを聴いて男(ジャン=ルイ・トランティニアン)は、他の男と踊っていた未亡人のエレオノラ・ロッシ=ドラゴを誘い、二人で踊るのだが…
その時、誘われた彼女が一言何か言うのだが、それが当時売り出されたサウンド・トラック盤にも入っていて、繰り返し聴いているうちに私の中では意味も知らずに「激しい季節」のテーマの一部になってしまった。
Temptation - Estate violenta - YouTube
当時そんな話を前述の先輩と話しては、サントラ盤に何回となく聴き入っていた。
高校卒業後40年ほどして、どうしてもその先輩に会いたくて、そんな当時の話や今音楽活動をどうしているかを聴きたくて、友人や先輩を辿って探してみた。
やっと辿りついてみると、その先輩は10年ほど前にすでに亡くなっていた。
あの身の置き所のないような、やるせないメロディーとともに綴られる愛と官能の世界。まだ少年の時代の、「激しい季節」の話をもっとしてみたかった。
フランス映画「墓に唾をかけろ」(ボリス・ヴィアン原作、原題「J'Irai Cracher Sur Vos Tombes」、1959年、監督ミシェル・ガスト、出演アントネラ・ルアルディ)もやはりジリジリするようなハーモニカのメロディ「褐色のブルース」(音楽アラン・ゴラゲール)が、暑さで朦朧とした頭の中で反響する。
黒人の少年がリンチにあって殺され、その兄(外見は白人)が弟をリンチにあわせた白人たちに復讐するという話。映画そのものはあまり印象にないが音楽の「褐色のブルース」は強烈で、ハーモニカの哀愁と緊迫感がたまらない。
もう一つ、夏の暑い日にふと想い出すのがやはり高校時代に観た「撃墜王アフリカの星」(原題「Der Stern von Afrika」、1957年ドイツ、監督アルフレッド・ワイデンマン、出演アキム・ハンセン)。
これは第二次世界大戦のアフリカ戦線で“アフリカの星”と呼ばれたドイツの英雄ハンス・ヨアヒム・マルセイユの生涯を描いたもので、やはりテーマの「アフリカの星のボレロ」(音楽ハンス・マルティン・マイエフスキー)が切なくいい。
特に出撃した機が故障し、脱出しようとしたパラシュートが開かずその機とともに、アフリカの夕日の中に散るシーンは、テーマ「アフリカの星のボレロ」とともに忘れられない。
街中などを歩いていて、ふと思うことがある。
(オレはどうして、今こんなところを歩いているんだろう!)と━
それが大抵夏の昼下がり、太陽がカッと照り付けとてつもなく暑い時なのである。
そんな時、前述のメロディーが頭の中を流れ、と同時にそれぞれのドラマを思い浮かべながら、あたかも自分が経てきた物語であるかのように登場人物一人一人の心情を慮り、懐かしみ、そして最後は無造作にそれらの想いを頭の中から押しやり、メロディーを口ずさみながらその残り香を楽しむのである。
旨いと思うとその原料から製法はおろか、その包み紙まで楽しみたいという性癖があって、その性癖を発揮しやすいのが暑い夏だということらしい。
暑ければ暑いほど、いつもなら恥を恥として抑えている各種制御装置が外れ、例え女々しいだろうが恥ずかしいことだろうがズッポリと浸ってしまう。
特にドラマチックなことが好きなのである。だからいつもドラマを、ドラマチックなことをと探し期待しているのである。
とはいえそうドラマチックなことが起こるわけがない。で、何もなければ昔の、昔見聞きしたドラマを引っ張り出して楽しもうというのかもしれない。
そう、夏はドラマチックな期待に満ちているのである。
あゝ、「激しい季節」が聴こえる‥
8月18日(木)西荻窪「ミントンハウス」ライブ
鈴木直樹(cla,s.s)、佐久間 和(gui)
start 19:30~ m.c\2,500
今注目のクラリネットとアコースティック・ギターの名手が揃う、まさに注目のライブ。
息の合った本格的なスイングを存分にお楽しみください。
昔のことといっても私の場合は、自分が体験したこととは限らない。
私ごときの体験したことなど高が知れているが、それを補うのがしょっちゅう観にいっていた映画や読んだ本である。
つまり私は、特に映画などは感じ入るとあたかも自分が体験したかがごとくに脳裏に刻み込まれてしまうらしい。しかも大抵そこには音楽が伴っている。
この時期頭がボーッとしそうなくらいに暑い日など、特に街を歩いている時などにふと想い出すシーンとメロディがある。
まずイタリア映画の「激しい季節」(1960年、原題「Estate Violenta」、監督ヴァレリオ・ズルリーニ、出演エレオノラ・ロッシ=ドラゴ、ジャン=ルイ・トランティニアン、ジャクリーヌ・ササール)である。
これは高校生の時に、クラリネットの上手い1年上の先輩に勧められて観た映画で、エレオノラ・ロッシ=ドラゴの官能的な美しさと、気だるいアルト・サックスのテーマが忘れられない。
映画の中ではあるパーティで、男性歌手が歌う「Temptation」(歌い手は分からない)で皆が踊っている。
その「Temptation」が終わり、次にアルト・サックスでのジリジリするくらいスローのテーマが流れる。
それを聴いて男(ジャン=ルイ・トランティニアン)は、他の男と踊っていた未亡人のエレオノラ・ロッシ=ドラゴを誘い、二人で踊るのだが…
その時、誘われた彼女が一言何か言うのだが、それが当時売り出されたサウンド・トラック盤にも入っていて、繰り返し聴いているうちに私の中では意味も知らずに「激しい季節」のテーマの一部になってしまった。
Temptation - Estate violenta - YouTube
当時そんな話を前述の先輩と話しては、サントラ盤に何回となく聴き入っていた。
高校卒業後40年ほどして、どうしてもその先輩に会いたくて、そんな当時の話や今音楽活動をどうしているかを聴きたくて、友人や先輩を辿って探してみた。
やっと辿りついてみると、その先輩は10年ほど前にすでに亡くなっていた。
あの身の置き所のないような、やるせないメロディーとともに綴られる愛と官能の世界。まだ少年の時代の、「激しい季節」の話をもっとしてみたかった。
フランス映画「墓に唾をかけろ」(ボリス・ヴィアン原作、原題「J'Irai Cracher Sur Vos Tombes」、1959年、監督ミシェル・ガスト、出演アントネラ・ルアルディ)もやはりジリジリするようなハーモニカのメロディ「褐色のブルース」(音楽アラン・ゴラゲール)が、暑さで朦朧とした頭の中で反響する。
黒人の少年がリンチにあって殺され、その兄(外見は白人)が弟をリンチにあわせた白人たちに復讐するという話。映画そのものはあまり印象にないが音楽の「褐色のブルース」は強烈で、ハーモニカの哀愁と緊迫感がたまらない。
もう一つ、夏の暑い日にふと想い出すのがやはり高校時代に観た「撃墜王アフリカの星」(原題「Der Stern von Afrika」、1957年ドイツ、監督アルフレッド・ワイデンマン、出演アキム・ハンセン)。
これは第二次世界大戦のアフリカ戦線で“アフリカの星”と呼ばれたドイツの英雄ハンス・ヨアヒム・マルセイユの生涯を描いたもので、やはりテーマの「アフリカの星のボレロ」(音楽ハンス・マルティン・マイエフスキー)が切なくいい。
特に出撃した機が故障し、脱出しようとしたパラシュートが開かずその機とともに、アフリカの夕日の中に散るシーンは、テーマ「アフリカの星のボレロ」とともに忘れられない。
街中などを歩いていて、ふと思うことがある。
(オレはどうして、今こんなところを歩いているんだろう!)と━
それが大抵夏の昼下がり、太陽がカッと照り付けとてつもなく暑い時なのである。
そんな時、前述のメロディーが頭の中を流れ、と同時にそれぞれのドラマを思い浮かべながら、あたかも自分が経てきた物語であるかのように登場人物一人一人の心情を慮り、懐かしみ、そして最後は無造作にそれらの想いを頭の中から押しやり、メロディーを口ずさみながらその残り香を楽しむのである。
旨いと思うとその原料から製法はおろか、その包み紙まで楽しみたいという性癖があって、その性癖を発揮しやすいのが暑い夏だということらしい。
暑ければ暑いほど、いつもなら恥を恥として抑えている各種制御装置が外れ、例え女々しいだろうが恥ずかしいことだろうがズッポリと浸ってしまう。
特にドラマチックなことが好きなのである。だからいつもドラマを、ドラマチックなことをと探し期待しているのである。
とはいえそうドラマチックなことが起こるわけがない。で、何もなければ昔の、昔見聞きしたドラマを引っ張り出して楽しもうというのかもしれない。
そう、夏はドラマチックな期待に満ちているのである。
あゝ、「激しい季節」が聴こえる‥
8月18日(木)西荻窪「ミントンハウス」ライブ
鈴木直樹(cla,s.s)、佐久間 和(gui)
start 19:30~ m.c\2,500
今注目のクラリネットとアコースティック・ギターの名手が揃う、まさに注目のライブ。
息の合った本格的なスイングを存分にお楽しみください。
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