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浦メシ屋奇談

音楽のこと(特にSwing Jazz)、ミステリーのこと、映画のこと、艶っぽいこと、落語のこと等々どちらかというと古いことが多く、とりあえずその辺で一杯やりながら底を入れようか(飯を喰う)というように好事家がそれとなく寄合う処。“浦メ シ屋~っ!”

2010年04月 | ARCHIVE-SELECT | 2010年06月

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チューバの友。

自分でも中学・高校とやっていたからということもあるが、吹奏楽にはもともと興味がある。
特に最近の吹奏楽は我々の頃と違って編成も大きく、また手がける曲も大掛かりで凄いことになっている。つまり吹奏楽の可能性は、色々な意味で昔と比べて非常に大きくなっている。
ところが最近吹奏楽にどことなく食い足りなさを感じるのはなぜだろう。吹奏楽の演奏会に行くと、マーチはとても興味深く聴くことができる。が他の曲、序曲や歌曲やポップス等々を聴いていると、何となく退屈してしまう。
生意気なことを言うようだが、思うにマーチは吹奏楽の音楽として確立しているような気がする。だからどのバンドの演奏を聴いても、巧拙はともかく面白く聴くことができる。
ところが他の曲はたまたま吹奏楽の編成で演奏している、としか思えない。つまり吹奏楽の音楽として消化して演奏しているとは思えないのである。言い換えれば、吹奏楽にはもっと吹奏楽としてのアレンジや演奏など、吹奏楽スタイルというか吹奏楽だからこその演奏があってもいいのではないかと思う。
(済みません。大して勉強もしていないにもかかわらず、勝手なことを言っております。)
ただあれだけ大好きだった吹奏楽を、積極的に聴かなくなってきたのはなぜだろう、とふと思ったのである。

その答えの一つを見た、いや聴いたようなバンドがある。
ジャズ・ユニット「The Joyful Brass」。1994年に結成され、すでに16年も活動しているブラスとドラムスだけのジャズ・バンドである。
トランペット2本、トロンボーン2本、チューバ、ドラムスの6人による吹奏楽編成。もちろん彼らはプロのジャズプレイヤーであるから巧いのは当たり前であるが、ここで注目すべきは演奏のテクニックのことではない。アレンジである。
この編成だとよくあるコンボ(小編成)のように、演奏直前に二言三言交わすだけのヘッドアレンジというわけにはいかない。同じ楽器が複数(トランペット2本、トロンボーン2本)あるだけに、音の重なりなどを考慮した割り振りを考えておかなければならない。つまりちゃんとしたアレンジが必要なのである。
だからこの「The Joyful Brass」のレパートリーは300を超えるらしいが、当然のこととはいえ全て譜面に起こしてある。ブラスだけの編成だと、音色の方向が同じ向きだからどうしても画一的になってくる。その辺を最初から考慮してサウンドをつくり構成を考えて、「The Joyful Brass」らしい曲に仕立てて演奏している。
私は彼らの3枚のCDのライナーノーツを書かせてもらっているが、そのアレンジの巧みさと演奏の小気味よさには感心する。それと彼ら皆が備えているエンターテイメント性が、それらを益々魅力的にしていると思う。
そういう「The Joyful Brass」の中で大事な役割を果たしているのが、和音をおさえリズムの源となるチューバである。
BRASS CRAZE!
先日(5月13日)、この「The Joyful Brass」のチューバの家中 勉を加えてライブをやった。(西荻窪 Minton House
鈴木直樹(クラリネット)、青木 研(バンジョー)、それに家中 勉(チューバ)のトリオである。家中 勉のチューバはすでに知っているつもりでいたが、この時はさらに舌を巻いた。
「The Joyful Brass」でもやっているが、チューバでのウッドベースのピッチカートのランニングのような演奏。家中自身も「ブラス・ベース」と言っているが、この日こんな速い「(Back Home Again In)Indiana」は聴いたことがない、というほどの超高速演奏を聴いた。
しかしとてつもなく速いとはいえベースラインの音の粒は一つ一つ、ウッドベースのように立っており、さらにチューバならではの心地よい軽快さで演奏を引っ張っていた。いや、この日の演奏は引っ張っていたというより、少し押し気味だったといったほうが当たってるかも知れない。
スーザ(John Philip Sousa)のお馴染みのマーチに「星条旗よ永遠なれ」があるが、あのトリオ(中間部)で緩やかなメロディの上をピッコロが小刻みにオブリガード(伴奏意外の演奏)を被せるところがある。実はそのピッコロのオブリガードを家中 勉はチューバでやってのけ、素晴らしい演奏をしているのである。(The Joyful Brass 2nd Album「BRASS CRAZE!」)
このことだけでも彼の言う「ブラス・ベース」の真価が分かろうというもの。断っておくが、これは彼のテクニックを称えているだけではない。その卓越したテクニックを生かした音楽性に惹かれ拍手を贈っているのである。
鈴木直樹 青木研 家中勉
この日のライブは、普段はなかなか顔が揃わない組み合わせで興味深かった。
珍しくクラリネットとアルトサックスとの持ち換えでノりにノッていた鈴木直樹と、「バンジョーの山、天下の研」ことバンジョーの青木 研ともに聴き応えがあった。特にここMinton Houseでのライブは、演奏する側と聴く側というように分かれず一体化しているのと、昔懐かしいジャムセッションの様相を呈していて、新しい可能性というか、面白さが発見できそうで非常に興味深い。
機会があったら是非一度、聴きに来て楽しんで欲しい。
ちなみに次回の私のプロデュースによるMinton Houseでのライブは、6月15日(火)。メンバーは、クラリネット(カーブド・ソプラノサックス)鈴木直樹、ピアノ山本 琢、ベース小林真人である。Swingを徹底的に聴きたくて組んだ、お気に入りのメンバーである。

そう、吹奏楽をやっていた中学生の頃からチューバには馴染んでいたが、こんなに活躍できる楽器だとは夢にも思わなかった。楽器には楽器の特性があり、その特性を存分に発揮することで音楽は益々楽しいものになるということを、この日のライブでまざまざと教えてもらった。そして何だか懐かしい友に、久しぶりに会ったような想いがした。4年ほど前に亡くなった親友が、中学時代にチューバを吹いていたからかも知れない。まさに忘れられない、竹馬の友だった。
そういえばもう一人、トロンボーンを吹いていた親友もすでに亡くなっている。寂しい限りである。
(敬称略)

| スイング・ジャズ | 20:58 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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