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浦メシ屋奇談

音楽のこと(特にSwing Jazz)、ミステリーのこと、映画のこと、艶っぽいこと、落語のこと等々どちらかというと古いことが多く、とりあえずその辺で一杯やりながら底を入れようか(飯を喰う)というように好事家がそれとなく寄合う処。“浦メ シ屋~っ!”

2011年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2012年01月

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Swingin'の力

「What A Wonderful World」
いささか大げさに言えば、客席とステージがまさに一つになった、和気あいあいとしたいいライブだった。

『Swingin’ (2nd)』ライブ(2011年12月6日)。
半年前の一回目にも意図したことだが、会場(東京メインダイニング)が渋谷の繁華街の1階にあるだけにジャズ・ファンに限らず、いわゆる音楽好きな特に女性客に期待し、新しいジャズ・シーンを描いて全体の構成を考えた。
大体ジャズ・ライブと言うと狭い階段を上がるか、地下に下りるかの小さなスペースで肩を寄せ合って聴くというのが大方だった。
その点、ここ東京メインダイニングでのライブはゆったりとしていて明るく、ステージの作りなどもちょっとしたシアター・レストランとでも呼びたくなるような雰囲気である。
Swingin' Quartet

新しいジャズ・シーンというほどではないが、普通の音楽好きの人が普通に楽しめるジャズ・ライブにならないだろうかとかねがね思っていたものだから、この2回のライブは会場のロケーションも含めていい挑戦だった。
どうしてもジャズというとかつてのモダン・ジャズや、さらに過激なフリー・ジャズなどを思い描くらしく、どうしても構えてしまう人が多く、マニアックな音楽としてなかなか近づいてくれなかった。
どうやら小うるさい音楽と誤解されていたらしい。
鈴木直樹

スイング・ジャズというのはいわばアメリカの歌謡曲のようなもので、流行り歌でも映画音楽でも、あるいはミュージカルでも童謡でも、オリジナルの曲の良さを損なうことなくスイング(スタイル)して楽しむ━いわゆるクールなのである。
それをジャズに馴染みのない人たちにも体感してもらおうというのがこのライブの狙いであり、その手ごたえを得ることができたということである。

演奏も次から次へと一方的にやるのではなく、分かりやすいテーマを立ててそのテーマの下にかつて聴いたことのある、知っているナンバーを中心に展開する━
今回は師走でもあり、いろいろあったこの一年を少しでも穏やかに締めくくりたいという願いを込めてテーマを「この素晴らしき世界(What A Wonderful World)」として、世界の国々のお馴染みのナンバーを探りながらスイングしてみた。
宅間善之

前以てのチラシにもそんなナンバーをプログラムの一部として紹介し、お客さんにも大体の様子が想像できるようにしておいた。
そんな準備が効いたのかどうかは分からないが、演奏が始まった時から緩やかな空気が客席から伝わってきて、とてもいい気分になれたのである。

その上にリーダーの鈴木直樹(Cla)のMCが卑近で、ちょっとしゃべり過ぎのきらいはあったが良かった。
終始笑いが起こり、楽しいジャズ・ライブになった。
メンバーは前回(6月)同様前述の鈴木直樹に、バンジョーの青木 研、ビブラホーンの宅間善之、それに今回はベースにポップスにも明るいベテランの田野重松というカルテットである。

そして今回は冒頭のようなことから、あまりジャズに慣れていない女性たちのために、どうしても聴いてほしいナンバーを選んで臨んだ。
まずは「Memories Of You」(あなたの思い出)。
これはもう、ベニー・グッドマンの十八番のナンバーとしてお馴染み。映画「ベニー・グッドマン物語」の中では、ベニー・グッドマン(スティーヴ・アレン)がカーネギー・ホールのステージでこの「Memories Of You」の演奏を始めると、客席にいた恋人(ドナ・リード)が「今、彼はプロポーズしている…」と言う名場面があるが…けだし名曲である。
またもいささか大げさに言えば、私は高校生時代ベニー・グッドマンのこの曲で恋のときめきとともに、いても立ってもいられない切なさを教えてもらったように思う。
鈴木直樹のクラリネットは透明感を帯びて優しくなってきた。だからこういう曲をやると、このまま終わらないでほしい‥という思いとともに聴き入ることが多い。
このときの宅間善之のビブラホーンは、いわゆるスイング調でないところがまたよかった。

そして「Dark Eyes」(黒い瞳)。
ルイ・アームストロングのトランペットと名唱で知られる、お馴染みのロシア民謡である。
鈴木直樹のカーブド・ソプラノ・サックスはこの曲の持っている哀愁を存分に引き出し味わい深く、昔から私は好きでよく聴いていた。
この手の編成のコンボは曲想を大事に出してくるから、とくにバンジョーは難しいと思う。
前述の「Memories Of You」のような情感たっぷりのような曲があったかと思うと、この「Dark Eyes」のようにテンポもスイング感もあるが、一方民謡としての愁いもある。
そんな絶妙な味わいを青木 研のバンジョーは的確に出してくる。曲によって表情が違うのである。これはテクニックはもちろんだが、そのテクニックを超えたその曲に対する確かな想いがあるのだと思う。まさしく彼は、若くしてバンジョーの山、天下の研、である。
青木 研

そんな思いをつくづくさせられたのが、「アルハンブラーの思い出」である。
ギターでも高度なトレモロ奏法の技術が必要な難曲である。それをバンジョーで弾くなど‥考えられない。が、またこのバンジョー一本での「アルハンブラーの思い出」が心を打つ。
ここにも超高度なテクニックとともに、曲に対する計り知れない想いがあるのだろうと思う。
いつかその、青木 研の音楽に対する思いをじっくりと聞いてみたいと思う。
それはさておき、この青木 研の「アルハンブラーの思い出」も是非聴いてほしい一曲だったのである。

そしてもう一曲、「Danny Boy」(ダニーボーイ)。
これこそ誰もが良く知るお馴染みのナンバーといえよう。古くはハリー・ベラホンテのカーネギー・ホールでの名唱、演奏ではサム・テイラーやシル・オースチンのテナーでお馴染みだが、鈴木直樹のカーブド・ソプラノ・サックスでの「Danny Boy」も実に優しくていい。
またここでも宅間善之のビブラホーンに合わせる青木 研のバンジョーがやるせなくいい。

このライブに来てくれていた女性の方が━
「ジャズって恋の音楽なんですね。
聴いてるうちに、20代の頃の好きな人のことで喜んだり苦しんだり、切なくなったりしたことを想い出して、懐かしくなったのと同時に何だかうれしくなりました‥」
「大雨の中、かけつけましたが、とっても楽しいライブでした!
どの曲も、楽しくて、暖かくて、優しくて、ずっと、体がスイングしていました。
帰りには、雨も上がり、足取り軽く帰宅しました。三回目も楽しみにしています」
田野重松

うれしいことです。
こんな感想がどんどん聞かれるようになり、もっともっとあちこちで演奏できるようになるといいのですが━
さあ、三回目の企画でも立てようか━

『Swingin’ (2nd)』
1set
1) When You’re Smiling
2) Memories Of You
3) Dark Eyes
4) アルハンブラの思い出
5) Fly Me To The Moon
6) 月の砂漠
2set
1) Back Home Again In Indiana
2) Tennessee Waltz
3) Theme Of Vagabond(蒲田行進曲)
4) 鈴懸の径
5) As Time Goes By
6) That’s A Plenty
7) Danny Boy
8) When The Saints Go Marching In
9) 見上げてごらん夜の星を

クラリネット(カーブド・ソプラノ・サックス)鈴木直樹
バンジョー 青木 研
ビブラホーン 宅間義之
バース 田野重松

※敬称は略させていただいています。
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