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浦メシ屋奇談

音楽のこと(特にSwing Jazz)、ミステリーのこと、映画のこと、艶っぽいこと、落語のこと等々どちらかというと古いことが多く、とりあえずその辺で一杯やりながら底を入れようか(飯を喰う)というように好事家がそれとなく寄合う処。“浦メ シ屋~っ!”

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名曲アヴァロンに、ドラマを観る。

映画「ベニー・グッドマン物語」の中で、旅をしているグッドマンの一行がカリフォルニア州カタリナ島のパラダイス・カフェで奇妙な黒人に出会うシーンがある。
給仕であり、コックであり、しかも食事中の客を楽しませるミュージシャンでもあるというこの男、いきなりヴァイブラホーンを持ち出して「アヴァロン」を演奏しだす。その見事な演奏に、グッドマンもクラリネットを組み立て演奏に加わる。と同時に同行していたテディ・ウイルソン(p)とジーン・クルーパ(dr)=この二人は本物=のつまりはベニー・グッドマン トリオが加わったのである。実はこの男、ヴァイブラホーン奏者のライオネル・ハンプトン(本物)だったのである。
グッドマンとハンプトンの出会いも、実際にはほぼこれと同じようなことだったらしい。この時の火の出るような演奏が、名人二人の出会いを、またベニー・グッドマン カルテットの誕生を象徴するようで良かった。実際ベニー・グッドマン(スティーブ・アレン)以外の3人は本物だったというところも考えてみれば凄い映画だ。それにアメリカなら、こんな凄いミュージシャンがあちこちにごろごろいるんじゃないかと思わせるエピソードで面白い。そして映画ではこの二人を結びつけたのが「アヴァロン」だという設定が、個人的にはニクイなと思う。
Benny Goodman Story
「アヴァロン」は1920年にアル・ジョンスン、バディ・デシリヴァ(作詞)とヴィンセント・ローズ(作曲)によって書かれた曲だが、実はご存知の方も多いと思うが曰く因縁付きの曲である。
クラシックファンでもある方、とくにオペラファンの方はそういえばと思われたこともあるのかもしれない。というのは「アヴァロン」にはオペラの下敷きがあったという。プッチーニの歌劇「トスカ」第三幕で歌われるアリア「星は光りぬ(星は輝く)」がそれ。つまり盗作ということで、大変な著作権料を支払ったというエピソード付きの曲なのだそうだ。
元々の「星は光りぬ」は、処刑前夜に恋人トスカとの別れを想い絶望の中で歌うというアリアだが‥「アヴァロン」はカナダのアヴァロン半島の入り江での出会いを、ロマンを歌ったもので、内容的にはまったく違う。が、そんな経緯を知る前から、「アヴァロン」が秘めるドラマチックな曲想に私は惹かれていた。
後に歌詞の内容やアヴァロン半島の存在、さらには伝説のアヴァロン島などについて知るにつれ、またまた夢想癖のはびこる我が脳はあらぬ方向へと独走してしまったのである。
それも小学生の頃、血沸き肉躍らせて読み耽ったアレキサンドラ・デュマの超長編「モンテクリスト伯」(岩窟王)。相思相愛の恋人との結婚式の前日、言われなき罪で孤島の牢獄に17年も囚われていた主人公エドモン・ダンテスが脱獄し、モンテクリスト島で莫大な宝物を探し当てその財産をバックにモンテクリスト伯爵と名乗り、無実の罪に落しいれ恋人までをも奪った奴らに復讐をするという、前稿にも書いた大スペクタクル・ロマンのあれである。
アヴァロン半島とモンテクリスト島、何の脈絡もないが、発酵しかけの我が廃色(?)の脳細胞は夢の実現を追い求めるロマンは同じと、まさに我が意を得たりとばかりに勝手に結びつけてしまった。以来、「アヴァロン」を聴くと血沸き肉踊る、ドラマチックな気分になってしまう。

脈絡ないついでにもう一つ「アヴァロン」を聴くと、何故かふと想い出すのが映画「魚が出てきた日」である。
憶えている方もいらっしゃるだろうが、1967年のギリシャ映画(原題「The Day The Fish Came Out」監督マイケル・カコヤニス、キャンディス・バーゲンも出演していた)で、原爆を積んだ飛行機がエーゲ海に不時着し、寸前に原爆をパラシュートでカロス島と海に落す。観光で沸く島内を、落とした原爆を二人のパイロットが秘密裏に探しまわるが、最後には陽気に踊る観光客の目の前で海から魚がプカプカと浮き上がってくるという、ハラハラドキドキのブラックコメディ。やはりこれもまったく脈絡はないが、「アヴァロン」を聴くとこの「魚が出てきた日」の舞台になった、何ともいえないリズムに溢れたある意味能天気なカロス島が浮かんでくるのである。

グッドマン カルテットの「アヴァロン」にはスリリングというか、トリッキーというか、スラップスティックというか、独特のドラマを感ずる。それは多分にライオネル・ハンプトンとジーン・クルーパによるもののような気がする。実際にこのカルテットにおける二人については、ジャズ・マスターズ・シリーズ-11「ベニー・グッドマン」(ブルース・クロウサー著/大島正嗣訳 油井正一監修 音楽之友社)に少し出ているが、興味深い。
そんなことから私にとって「アヴァロン」は、ベニー・グッドマン カルテットの象徴的なナンバーであり、大好きである。
そういえば最近ヴァイブラホーンを聴いていない。昔から馴染んでいた松崎龍生も、大好きな出口達治も、共に今病気療養中である。特に出口達治の病には多少なりとも私も関わりがあったので、早く回復されることを祈るばかりである。
あの素晴らしいマレット捌きで、「アヴァロン」を聴きたいものだ。
(敬称略)

| スイング・ジャズ | 22:10 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

こんにちは! 初めまして。
ヴィブラホーンカルテットをしていまして、今回アヴァロンをレコーディンしたので、色々調べていてたどり着き拝見させて頂きました。
とても参考になりました、ありがとうございます。

| chang | 2012/07/23 13:11 | URL |















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