昼下がりの情事…してみたい。
ヴァイオリン、シロホン、アコーディオン‥ゆるやかに、流れるような「魅惑のワルツ」。そのたなびく音の中でゆっくりとステップを踏む二人のシルエット‥
鏡のような水面を滑るボートの中で楽しげに話すゲイリー・クーパーとオードリー・ヘップバーン。その後ろのボートにやはりジプシーのカルテットが‥
この「昼下がりの情事」を観て、17歳の私は「これをしたい!」と思った。もちろん、こんなロマンチックな逢瀬にも憧れるが、それよりもいつでもバンドを連れてあるいて、好きな時に好きな音楽を奏でさせ楽しむ!これこそ世の中で一番の贅沢であり、その飛び切りの贅沢を是非ともしてみたい、とその時思ったものだ。
この時そう思ったのは、大富豪で熟年のプレイボーイのゲイリー・クーパーが、専属のバンドを連れ歩くというそのことだけに憧れたわけではない、ということが後々何となく分かった。あの「昼下がりの情事」という映画の憎らしいほどのシャレっぽさ、可笑しさなどその粋さに惹かれたのだと思う。

「昼下がりの情事」(原題:Love In The Afternoon、製作:監督:脚本:ビリー・ワイルダー、’57年アメリカ)は当時56歳のクーパー(フラナガン)と28歳のヘップバーン(アリアーヌ)が実年齢のまま出ているような物語(ヘップバーンは音楽学校の生徒だから、もうちょっと若い設定だが━)。そこへヘップバーンの父親役の名優モーリス・シュバリエが浮気調査の探偵役で絡む。
金持ちで熟年の百戦錬磨のプレイボーイと、まったく汚れていない小娘が何人もの男を手玉に取る海千山千の悪女を演じつつ偽装の浮気ごっこをすすめるという話。ところがプレイボーイのフラナガンはアリアーヌを浮気女どころか、まったく男を知らない普通の娘であることを知り彼女への興味を失うが、いつまでも恋多き女を演じる彼女をいじらしく思い惹かれていく。そしてラストのほんの数分で急転直下大団円、ハッピーエンドで終わる。
この映画全篇、シャレっぽさ、可笑しさ、粋さの演出が何とも言えずいい。例えば音楽学校でチェロを学ぶアリアーヌがチェロケースに豪華な毛皮を入れて持ち運んだり、チェロケースにぶら下がっているチェーンをアンクレットにしたり、サウナの中までフラナガンに付いていって演奏する楽団のヴァイオリンの中に水蒸気を溜まらせてザーッとあけてみたり、アリアーヌの正体が分からずいらいらしながら酒を呑み、一緒に楽団のメンバーにも呑ませ酔っ払っていく過程に合わせて演奏させたり、フラナガンの胸にはいつもカーネーションの花が付いていたり‥
この「昼下がりの情事」の、ビリー・ワイルダーの面白さは歳を経るごとに、さらにさらにじんわりと分かるような気がしてうれしくなる。
そう、そしてこの全篇に流れているのが「魅惑のワルツ」(Fascination)である。私はこの「昼下がりの情事」を観た高校生の時、この「魅惑のワルツ」をすっかり好きになってしまった。
後年になって、私がジャズのコンサートやイベントなどをいろいろと手がけるようになった時、ライブでクラリネットの鈴木直樹に「Fascination」をやろうというと、彼がいうに「ワルツはバンド・チェンジを想い出してイヤだな。特にこの曲はしょっちゅうやっていたから━」と、こちらの想いなど意に介さず一掃されてしまった。
確かに、昔ダンスホールなどでのバンドの交代はワルツで、「Fascination」は良く使われていた。こっちはそれがまた良かったのだが━
今、後年になってジャズのコンサートやイベントなどを手がけるようになったと書いたが…もともと私は広告屋でジャズは趣味。ところがある頃から、ジャズを好きなだけで終わらせたくないという思いとともにもう一つ、実は今までお話していた高校時代に観たあの「昼下がりの情事」を想い出したのである。つまりあの大富豪のプレイボーイ フラナガンのように自分のバンドを抱え、好きな時に好きな曲を楽しみたい!という遠い昔の夢を少しでもいいから実現してみたいと思ったのである。
とはいえ、もちろんバンドを抱えるほどの金があるわけじゃなし。ましてやジャズ界にあヽせえこうせえと顔が利くわけでもなし。ちょうどそんな時、たまたまリハーサルバンド(ビッグ・バンド)と知り合いになり、そのバンドのマネージャーとプロデューサーを兼ねてお手伝いを始めたのである。
そこで沢山のミュージシャンを知り、ジャズ界の事情を知り情報を得て、修業というほどでもないが動きやすくしていったということである。その後は時々とはいえ自分でやりたいと思うコンサートなどの企画を立て、好きなミュージシャンを揃え聴きたい曲を構成し、賛同されたお客さんにお金を出していただいて、自分も大いに楽しもうというのである。いわば他人の褌で相撲を取ろうというのである。
今も幾つかの面白い企画をプラン中であるから、ここを通じてもお知らせすることになると思う。その時は、プランにご賛同いただければ、是非一緒に楽しもうではありませんか。特に来年はベニー・グッドマンの没後25周年にあたり、ビッグ・バンドをベースに大いにSwingを楽しむ企画を催したいと思う。

以上のようなことは、ジャズに限らずやはり大好きな落語も同様である。聴きたい咄家、面白い企画を思い付くと芸人に声をかけ、同士を集めて皆で楽しむのである。
しばらくお休みしていたが、昨年から復活したのが「屋形船で落語を聴いて飯を食う会」。昨年は浅草の観音様の四万六千日の縁日の直後に夕涼みを兼ねて、桂 平治師匠と奇術の小泉ポロンをおよびして大盛況だった。特に昨年は演芸の後、参加したミュージシャンの花岡詠二やシンガーの野村佳乃子による飛び入り演奏があり、違った楽しみも加わり、まさに真夏の夜の夢となった。
そして今年も7月17日(土)。今上り調子の6代目春風亭柳朝師匠と紙切りの林家楽一をお呼びして催す。ご夫婦で、ご家族で、あるいは親しいお友達連れでお楽しみいただければうれしい限りである。ご興味のある方はお問合せされたし━
好きが嵩じて、実際に楽しんでみたい!と思うといつの間にかやりだしてしまう。有難いことに今の時代、何でもやれそうな可能性に満ちている。言いかえれば、世の中がある意味いい加減だから、それほど障害が大きくない。というより情報が多いのと、特別なことということがなくなってきているから、大抵なことはできそうな気がする。だからこれからも面白そうなことはいろいろとやってみたい。ある程度は時間をかけても━
あの、「昼下がりの情事」…をしてみたい。
(敬称略)
鏡のような水面を滑るボートの中で楽しげに話すゲイリー・クーパーとオードリー・ヘップバーン。その後ろのボートにやはりジプシーのカルテットが‥
この「昼下がりの情事」を観て、17歳の私は「これをしたい!」と思った。もちろん、こんなロマンチックな逢瀬にも憧れるが、それよりもいつでもバンドを連れてあるいて、好きな時に好きな音楽を奏でさせ楽しむ!これこそ世の中で一番の贅沢であり、その飛び切りの贅沢を是非ともしてみたい、とその時思ったものだ。
この時そう思ったのは、大富豪で熟年のプレイボーイのゲイリー・クーパーが、専属のバンドを連れ歩くというそのことだけに憧れたわけではない、ということが後々何となく分かった。あの「昼下がりの情事」という映画の憎らしいほどのシャレっぽさ、可笑しさなどその粋さに惹かれたのだと思う。

「昼下がりの情事」(原題:Love In The Afternoon、製作:監督:脚本:ビリー・ワイルダー、’57年アメリカ)は当時56歳のクーパー(フラナガン)と28歳のヘップバーン(アリアーヌ)が実年齢のまま出ているような物語(ヘップバーンは音楽学校の生徒だから、もうちょっと若い設定だが━)。そこへヘップバーンの父親役の名優モーリス・シュバリエが浮気調査の探偵役で絡む。
金持ちで熟年の百戦錬磨のプレイボーイと、まったく汚れていない小娘が何人もの男を手玉に取る海千山千の悪女を演じつつ偽装の浮気ごっこをすすめるという話。ところがプレイボーイのフラナガンはアリアーヌを浮気女どころか、まったく男を知らない普通の娘であることを知り彼女への興味を失うが、いつまでも恋多き女を演じる彼女をいじらしく思い惹かれていく。そしてラストのほんの数分で急転直下大団円、ハッピーエンドで終わる。
この映画全篇、シャレっぽさ、可笑しさ、粋さの演出が何とも言えずいい。例えば音楽学校でチェロを学ぶアリアーヌがチェロケースに豪華な毛皮を入れて持ち運んだり、チェロケースにぶら下がっているチェーンをアンクレットにしたり、サウナの中までフラナガンに付いていって演奏する楽団のヴァイオリンの中に水蒸気を溜まらせてザーッとあけてみたり、アリアーヌの正体が分からずいらいらしながら酒を呑み、一緒に楽団のメンバーにも呑ませ酔っ払っていく過程に合わせて演奏させたり、フラナガンの胸にはいつもカーネーションの花が付いていたり‥
この「昼下がりの情事」の、ビリー・ワイルダーの面白さは歳を経るごとに、さらにさらにじんわりと分かるような気がしてうれしくなる。
そう、そしてこの全篇に流れているのが「魅惑のワルツ」(Fascination)である。私はこの「昼下がりの情事」を観た高校生の時、この「魅惑のワルツ」をすっかり好きになってしまった。
後年になって、私がジャズのコンサートやイベントなどをいろいろと手がけるようになった時、ライブでクラリネットの鈴木直樹に「Fascination」をやろうというと、彼がいうに「ワルツはバンド・チェンジを想い出してイヤだな。特にこの曲はしょっちゅうやっていたから━」と、こちらの想いなど意に介さず一掃されてしまった。
確かに、昔ダンスホールなどでのバンドの交代はワルツで、「Fascination」は良く使われていた。こっちはそれがまた良かったのだが━
今、後年になってジャズのコンサートやイベントなどを手がけるようになったと書いたが…もともと私は広告屋でジャズは趣味。ところがある頃から、ジャズを好きなだけで終わらせたくないという思いとともにもう一つ、実は今までお話していた高校時代に観たあの「昼下がりの情事」を想い出したのである。つまりあの大富豪のプレイボーイ フラナガンのように自分のバンドを抱え、好きな時に好きな曲を楽しみたい!という遠い昔の夢を少しでもいいから実現してみたいと思ったのである。
とはいえ、もちろんバンドを抱えるほどの金があるわけじゃなし。ましてやジャズ界にあヽせえこうせえと顔が利くわけでもなし。ちょうどそんな時、たまたまリハーサルバンド(ビッグ・バンド)と知り合いになり、そのバンドのマネージャーとプロデューサーを兼ねてお手伝いを始めたのである。
そこで沢山のミュージシャンを知り、ジャズ界の事情を知り情報を得て、修業というほどでもないが動きやすくしていったということである。その後は時々とはいえ自分でやりたいと思うコンサートなどの企画を立て、好きなミュージシャンを揃え聴きたい曲を構成し、賛同されたお客さんにお金を出していただいて、自分も大いに楽しもうというのである。いわば他人の褌で相撲を取ろうというのである。
今も幾つかの面白い企画をプラン中であるから、ここを通じてもお知らせすることになると思う。その時は、プランにご賛同いただければ、是非一緒に楽しもうではありませんか。特に来年はベニー・グッドマンの没後25周年にあたり、ビッグ・バンドをベースに大いにSwingを楽しむ企画を催したいと思う。

以上のようなことは、ジャズに限らずやはり大好きな落語も同様である。聴きたい咄家、面白い企画を思い付くと芸人に声をかけ、同士を集めて皆で楽しむのである。
しばらくお休みしていたが、昨年から復活したのが「屋形船で落語を聴いて飯を食う会」。昨年は浅草の観音様の四万六千日の縁日の直後に夕涼みを兼ねて、桂 平治師匠と奇術の小泉ポロンをおよびして大盛況だった。特に昨年は演芸の後、参加したミュージシャンの花岡詠二やシンガーの野村佳乃子による飛び入り演奏があり、違った楽しみも加わり、まさに真夏の夜の夢となった。
そして今年も7月17日(土)。今上り調子の6代目春風亭柳朝師匠と紙切りの林家楽一をお呼びして催す。ご夫婦で、ご家族で、あるいは親しいお友達連れでお楽しみいただければうれしい限りである。ご興味のある方はお問合せされたし━
好きが嵩じて、実際に楽しんでみたい!と思うといつの間にかやりだしてしまう。有難いことに今の時代、何でもやれそうな可能性に満ちている。言いかえれば、世の中がある意味いい加減だから、それほど障害が大きくない。というより情報が多いのと、特別なことということがなくなってきているから、大抵なことはできそうな気がする。だからこれからも面白そうなことはいろいろとやってみたい。ある程度は時間をかけても━
あの、「昼下がりの情事」…をしてみたい。
(敬称略)
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