スイッチ・ペッター
2010年、プロ野球日本シリーズへのパリーグからの進出は千葉ロッテに決まった。(10月19日)
野球は好きで時にはTVで、機会があれば球場にも足を運ぶ。この稿は野球がテーマではないが、私の中でにわかに音楽がらみで興味が湧いてきたことがある。
今年のプロ野球界の大きな話題の一つに、年間200本安打達成のバッターが3人出たことがある。
阪神タイガースのマット・マートン(214本)、ヤクルト・スワローズの青木宣親(209本)、それに前述の千葉ロッテの西岡 剛(206本)である。
特に興味を持ったのは西岡 剛。いや西岡 剛に興味を持ったというより、実は西岡 剛の左右打ちを、つまりはスイッチ・ヒッターを面白いと思ったのである。
ひと月ちょっと前に、ビッグ・バンドの「鈴木正男 & SWING TIMES」のライブに南青山「MANDALA」へ行った。
通路脇の鏡張りの壁に寄りかかって私は聴いていた。トランペットのソロになって、一番右端の4番が立ち上がった。とはいえ私の位置からは柱が邪魔になって、4番のラッパだけが見えなかった。
4番はマッキー(牧原正洋)だな、と思いつつ背にした鏡を振り返った。相変わらずイケメンのマッキーが、鏡の左奥で立ち上がって吹いているのが見えた。
鏡の映像を振り返るのを止めて顔を戻そうとしてふと、何かヘンだな、と思った。が、すぐに何が変だか分からなかった。

マッキーのソロが終わって座り、他の3人がトランペットを構えて初めて分かった。トランペットを持つ手が他の3人と逆だった。
普通は左手でトランペットを持ち、右手を右側から添えて右手の中3本の指(人差し指、中指、薬指)で3つのピストンを押さえて、唇の振動操作と連動させて様々な種類の音を出すのである。
ところがマッキーは、右手でトランペットを持ち、左手を左側から添え、ベル(広がっているラッパ口)へ向う管越しに左手中3本の指でピストンを操作していた。
鏡にはそのまま対面に映るので、トランペットを持つ右手が左側に、左手が右側に映るからすぐに分からなかったのである。
(えっ!?マッキー、左手で吹いている!?)
南青山「MANDALA」はステージの上手(右)奥、つまりトランペット・セクションの右手(4番トランペットの右)にステージへの出入り口がある。
その出入り口からマッキーの様子を見ようと、私は演奏中そっと行ってみた。なるほど、マッキーが、右手でトランペットを持ち、左手でピストンを操作して吹いている。見慣れていないから確かに妙だ。(写真)
そういえば、私には見えないから何故か分からなかったが、マッキーがソロをとるたびに他の3人のトランペッターが柱の陰のマッキーを見上げて笑っていた。トランペット・セクション以外のメンバーは、一番後ろの端だけに演奏しているところが見えるわけでもないから、まったく気が付いていなかった。
後でリーダーの鈴木正男に聞くと、彼は知っていたがふざけているのかと思ったと言っていた。
ちなみに終始正面から見て聴いていたお客さんも、多分気がついていなかったと思う。
休憩に入って早速マッキーを捕まえて聞いてみた。
驚いた。ふざけるどころか、1ヶ月ほど前(7月)から疲労性の障害で右腕が上がらず、まったく力が入らない状態が続いているという。
かといって仕事を休むわけにはいかないから、なるべく右腕に負担をかけないようにしながら、左手(指)でのピストン操作を練習したのだそうだ。
その練習も、60くらいのゆっくりのテムポ(1分間に四分音符60個)で丁寧にスケールを繰返す、まったくの初心者と同じようなことから根気強くやったという。
その結果、右手で楽器を支え今のように吹けるようになったのだという。さすがに一流のプロである━と、そのときはいたく感心しただけで終わった。

それからしばらくそのことを忘れていた。
そう、プロ野球のCS(クライマックス・シリーズ)が始まり、福岡ソフト・バンクと千葉ロッテの試合で、前述のスイッチ・ヒッター西岡 剛の活躍を見て想い出したのである。
右投げのピッチャーの時は左打席で打ち、左投げピッチャーには右打席で打ち成果を出す。
これは右打者が左打席のバッティングを練習し、単に技術を習得すればいいという問題ではないと思う。アマチュアならそれで十分な成果は得られるだろう。が相手のピッチャーもプロである。技術もさることながらその頭の中、思考・発想からして違うのではないだろうか。
つまり単に右投げのピッチャーだから左打ちが、左投げだから右打ちが有利というだけでなく、右打ち時の思考・発想と左打ち時の思考・発想がそれぞれあって、両方できる幅の広さというか深さが、ピッチャーを翻弄しヒットの可能性を高めるのではないだろうか、と西岡のバッティングを見ながら面白がって考えてみたりしていた。
その時、ふとマッキーのことを想い出した。
そうか、マッキーも右手を故障したから、左手でピストン操作を練習してできるようになった、ということだけではないのではないだろうか。
頭の中で描いた(考えた)メロディーを唇と舌と、指とを連動させて音の流れ(動き)を実現していくわけだが‥右手と左手の違いは脳の使い方、思考と発想からしてすでに違うのではないだろうか。
だから奏でられるメロディー(音楽)も違うように思う。あのライブの時にはあまり気が付かなかったが、そんな違いもあってあの時ちょっとヘンだなと思ったのかもしれない。
ということは、マッキーは右と左で二人分の個性での演奏(?)のできるトランペッターということだろうか。そんな話は聞いた事も無いが━野球ならスイッチ・ヒッターだが、この場合はいわばスイッチ・(トラン)ペッターとでも言おうか。
それにしてもサウスポー用のトランペットなんて、ないんだろうか。
先日、マッキーと電話で話をした。リハーサルの休憩時間での話だったから、詳しいことまでは聞けなかったが、まだまだ右腕の状態は変わっていないという。
今度会った時に、左右の手の違いと音楽の違いについてじっくり聞いてみたいと思う。
いずれにしても、焦らずにじっくりと、とにかく完治させて欲しいと願うばかりである。しかし今は今で、サウスポーの音楽を楽しませて欲しいとも思う。
マッキーこと、牧原正洋のHPはこちら━
また、「鈴木正男 & SWING TIMES」の南青山「MANDALA」での次の定期ライブは、10月27日(水)である。
野球は好きで時にはTVで、機会があれば球場にも足を運ぶ。この稿は野球がテーマではないが、私の中でにわかに音楽がらみで興味が湧いてきたことがある。
今年のプロ野球界の大きな話題の一つに、年間200本安打達成のバッターが3人出たことがある。
阪神タイガースのマット・マートン(214本)、ヤクルト・スワローズの青木宣親(209本)、それに前述の千葉ロッテの西岡 剛(206本)である。
特に興味を持ったのは西岡 剛。いや西岡 剛に興味を持ったというより、実は西岡 剛の左右打ちを、つまりはスイッチ・ヒッターを面白いと思ったのである。
ひと月ちょっと前に、ビッグ・バンドの「鈴木正男 & SWING TIMES」のライブに南青山「MANDALA」へ行った。
通路脇の鏡張りの壁に寄りかかって私は聴いていた。トランペットのソロになって、一番右端の4番が立ち上がった。とはいえ私の位置からは柱が邪魔になって、4番のラッパだけが見えなかった。
4番はマッキー(牧原正洋)だな、と思いつつ背にした鏡を振り返った。相変わらずイケメンのマッキーが、鏡の左奥で立ち上がって吹いているのが見えた。
鏡の映像を振り返るのを止めて顔を戻そうとしてふと、何かヘンだな、と思った。が、すぐに何が変だか分からなかった。

マッキーのソロが終わって座り、他の3人がトランペットを構えて初めて分かった。トランペットを持つ手が他の3人と逆だった。
普通は左手でトランペットを持ち、右手を右側から添えて右手の中3本の指(人差し指、中指、薬指)で3つのピストンを押さえて、唇の振動操作と連動させて様々な種類の音を出すのである。
ところがマッキーは、右手でトランペットを持ち、左手を左側から添え、ベル(広がっているラッパ口)へ向う管越しに左手中3本の指でピストンを操作していた。
鏡にはそのまま対面に映るので、トランペットを持つ右手が左側に、左手が右側に映るからすぐに分からなかったのである。
(えっ!?マッキー、左手で吹いている!?)
南青山「MANDALA」はステージの上手(右)奥、つまりトランペット・セクションの右手(4番トランペットの右)にステージへの出入り口がある。
その出入り口からマッキーの様子を見ようと、私は演奏中そっと行ってみた。なるほど、マッキーが、右手でトランペットを持ち、左手でピストンを操作して吹いている。見慣れていないから確かに妙だ。(写真)
そういえば、私には見えないから何故か分からなかったが、マッキーがソロをとるたびに他の3人のトランペッターが柱の陰のマッキーを見上げて笑っていた。トランペット・セクション以外のメンバーは、一番後ろの端だけに演奏しているところが見えるわけでもないから、まったく気が付いていなかった。
後でリーダーの鈴木正男に聞くと、彼は知っていたがふざけているのかと思ったと言っていた。
ちなみに終始正面から見て聴いていたお客さんも、多分気がついていなかったと思う。
休憩に入って早速マッキーを捕まえて聞いてみた。
驚いた。ふざけるどころか、1ヶ月ほど前(7月)から疲労性の障害で右腕が上がらず、まったく力が入らない状態が続いているという。
かといって仕事を休むわけにはいかないから、なるべく右腕に負担をかけないようにしながら、左手(指)でのピストン操作を練習したのだそうだ。
その練習も、60くらいのゆっくりのテムポ(1分間に四分音符60個)で丁寧にスケールを繰返す、まったくの初心者と同じようなことから根気強くやったという。
その結果、右手で楽器を支え今のように吹けるようになったのだという。さすがに一流のプロである━と、そのときはいたく感心しただけで終わった。

それからしばらくそのことを忘れていた。
そう、プロ野球のCS(クライマックス・シリーズ)が始まり、福岡ソフト・バンクと千葉ロッテの試合で、前述のスイッチ・ヒッター西岡 剛の活躍を見て想い出したのである。
右投げのピッチャーの時は左打席で打ち、左投げピッチャーには右打席で打ち成果を出す。
これは右打者が左打席のバッティングを練習し、単に技術を習得すればいいという問題ではないと思う。アマチュアならそれで十分な成果は得られるだろう。が相手のピッチャーもプロである。技術もさることながらその頭の中、思考・発想からして違うのではないだろうか。
つまり単に右投げのピッチャーだから左打ちが、左投げだから右打ちが有利というだけでなく、右打ち時の思考・発想と左打ち時の思考・発想がそれぞれあって、両方できる幅の広さというか深さが、ピッチャーを翻弄しヒットの可能性を高めるのではないだろうか、と西岡のバッティングを見ながら面白がって考えてみたりしていた。
その時、ふとマッキーのことを想い出した。
そうか、マッキーも右手を故障したから、左手でピストン操作を練習してできるようになった、ということだけではないのではないだろうか。
頭の中で描いた(考えた)メロディーを唇と舌と、指とを連動させて音の流れ(動き)を実現していくわけだが‥右手と左手の違いは脳の使い方、思考と発想からしてすでに違うのではないだろうか。
だから奏でられるメロディー(音楽)も違うように思う。あのライブの時にはあまり気が付かなかったが、そんな違いもあってあの時ちょっとヘンだなと思ったのかもしれない。
ということは、マッキーは右と左で二人分の個性での演奏(?)のできるトランペッターということだろうか。そんな話は聞いた事も無いが━野球ならスイッチ・ヒッターだが、この場合はいわばスイッチ・(トラン)ペッターとでも言おうか。
それにしてもサウスポー用のトランペットなんて、ないんだろうか。
先日、マッキーと電話で話をした。リハーサルの休憩時間での話だったから、詳しいことまでは聞けなかったが、まだまだ右腕の状態は変わっていないという。
今度会った時に、左右の手の違いと音楽の違いについてじっくり聞いてみたいと思う。
いずれにしても、焦らずにじっくりと、とにかく完治させて欲しいと願うばかりである。しかし今は今で、サウスポーの音楽を楽しませて欲しいとも思う。
マッキーこと、牧原正洋のHPはこちら━
また、「鈴木正男 & SWING TIMES」の南青山「MANDALA」での次の定期ライブは、10月27日(水)である。
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