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浦メシ屋奇談

音楽のこと(特にSwing Jazz)、ミステリーのこと、映画のこと、艶っぽいこと、落語のこと等々どちらかというと古いことが多く、とりあえずその辺で一杯やりながら底を入れようか(飯を喰う)というように好事家がそれとなく寄合う処。“浦メ シ屋~っ!”

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香香党の本来は━

もう、5~6年になるだろうか。脳・心・体の活性化を期して、自ら志願してメシの仕度をしている。
とはいえ今流行りの男の料理というほどのものでもない。魚を焼いたり、炒め物をしたり、時には煮物をしたり、鍋にしてみたり‥毎日のことであるから、まさにメシの仕度程度である。しかし好きとはいえ毎日となると、結構大変である。2~3日先を見通しながら大体の献立を考え、買い物をしておき台所に立つ。
仕事柄家にいる時間が多いが、それ買い物だ、夕飯の仕度だとやっていると結構時間をとられる。何がイヤかといって、家事の時間が来たからとそれまでやっていた仕事を中断しなければならないことほどイヤなことはない。だから朝、時間割をキチンと立て、その通りに動きその時々のことに専念することで余計な思考の余韻や広がりを断ち、例え短くとも充実させることがコツのようだ。
いや、主婦はつくづく大変だと思う。ほかに掃除や洗濯、家族・家庭の諸々をやらなければならない。主婦(専業)はそれが仕事だ、と言うのは簡単だが、家事は雑用の集まりだから、外へ出てやるような仕事の域まで意識を変えてやるのはやはり大変だろう。

メシの仕度をするようになって一番の収穫は、例えば洗物などの面倒なことをイヤだとも何とも思わずにできるようになれたらシメタもの、と考えていたことがそうなれたことである。
大体作るところまではするが、後片付けはおよそ面白くもないからやりたがらない。が、どうせやるならそこまでやらないと意味がないから、イヤイヤながらもそう念じつつやっているうちに、いつの間にかまったくそう思わなくなり、メシの仕度の一連の作業の締めくくりとして今では何の苦もなくやってしまう。
面倒がらない!何でも楽しくやりたい!即身体を動かす!脳・心・体の活性化のためというのは、そういう意味なのである。

ところでそんな話をしたくて書いているのではない。毎日メシの仕度をしていて心残りに思うことが一つある。それは香香(こうこ)に、いわゆる漬物、お新香にこれはと思う旨いのがなかなかないことである。旨い香香があると、食卓はグンと違ったものになる。
おかずは毎日変わる。にも関わらず食卓に絶対に欠かせないのが味噌汁と香香である。味噌汁は自分で作るからまだ工夫が利くが、香香はメシの仕度とは違ったところで手数がかかるから買ってしまう。
スーパーなどにはいろいろとあるが、どうもこれといった旨いものに巡り合ったことが殆どない。やはり自分で漬けるより仕方がないのだろうか。
ああ、お袋に教わっときゃ良かった。幼い日に嗅いだ、お袋の手の糠味噌の匂いが懐かしい。
“香香を漬けたいときには、親はなし”だから旨い香香が喰いたかったら、親が生きているうちにちゃんと教わっておけ、という昨今ではまるで生きようがない親香香(?)に対する教訓である。
小さな水滴を留める濃い紫と薄っすらと緑を刷いたような白いヘタの茄子。あるいは水分を少し取られてやや萎びながらも濃い緑に程よく漬かっている胡瓜。大根、茗荷‥
特に香香というと「いの一番」に頭に浮かぶのが「覚弥の香香」(かくやのこうこ。「隔夜の香香」とも書く)、いわゆる古漬けである。(何故、覚弥の、あるいは隔夜の香香というかの解説は長くなるので本稿では省く。ここを訪れていただいている方々は、脇のサイトでいくらでもお知りになる手がおありだろうから、今回はそちらでお願いしたい。)
「覚弥の香香」といえばまだまだ遠いがやはり季節は夏で、なおかつ一番に思いつくのはやはり落語の「酢豆腐」だろう。
「酢豆腐」といえば黒門町(八代目桂 文楽)も然りだが、ここでは古今亭志ん朝(平成13年没)をあげたい。
高座
「台所の板を上げてみろ。ヌカミソ桶がある━
中へグーッと深く手ぇ突っ込んでみろ。必ず忘れちまったような古漬けってぇのが2つや3つは出てくる。ネッ!こいつをよ~く洗ってトントントントーンと細かく刻んでだ、ナッ!うん、そのまんまだってぇと臭くっていけねぇから、一旦水に泳がせて、しばらく置いといて、こんどは布巾にあけてよ、ネッ!そこへ生姜を下ろしてもいいよ!細かに刻んでも構わねぇ、一緒に混ぜてキュッと絞って、ネェ~ッ!えゝちょいと上にカツ節やなんかパラパラッて振りかけて、下地(醤油)でもちょういと垂らしてやってみな!そりゃ乙な酒の肴になるよ!エーッ!覚夜の香香ってなぁどうだい!」
真夏の昼下がり、町内の若い衆が集って暑気払いをしようとして、酒は何とか用意できたが肴が無い。金がかからなくて、酒の肴になっておマンマのおかずにもなって、なおかつみんなの口に入るような何かいいモンはねぇか!という呼びかけに男が啖呵のように一気にまくし立てるくだりである。
志ん朝は勢いと言うか調子というか、妙にシナのある口調でトントンと小気味良くくるから堪らない。
(その調子よさ、小気味よさが、歳を経ることによってどう変わってくるだろうかと、密かに楽しみにしていたのだが、あっさりと逝ってしまった。せっかくの大いなる楽しみが奪われてしまい、残念至極である。)
小鉢にギュッと絞ったままの刻まれた色濃いナスの塊りに、微塵に刻んだ生姜と鰹節がパラパラッとかかって、そこへ醤油が‥眼に浮かぶようで、思わず生唾を飲み込んで白いご飯が欲しくなる。

志ん朝はともかく、覚弥の香香、古漬けはいい。とはいえ、端から古漬けを作るつもりで漬けるのではもう一つ合点がいかない。やはり樽の底に忘れられていたナスでなくては━そう、だから沢山はいけない。もう少し欲しいなあ、というくらいのところがちょうどいい。そういえば三代目三遊亭金馬の得意ネタに「孝行糖、孝行糖、孝行糖の本来は━」と唱える「孝行糖」というのがあるが‥こちとらぁ「香香党」よぉ!してその本来はと来りゃあ「惜しみつつチビチビ味わう覚弥の香香」、である。
やはり「酢豆腐」の中に、糠味噌の中から古漬けを出せ、と言われて━
「(手が)いつまでも臭くってネチネチして!いい若ぇモンのするこっちゃねぇや!」とやはり啖呵を切るくだりがあるが、こっちはもういい若ぇモンというにはいささかとうが立ち過ぎているから、気にすることもあるまい。一つ糠味噌でもやってみるか、と「でも糠」の心境にもなっている。
どなたか市販の漬物で美味しいのがあったら、是非教えて欲しい。

| 旨いもの | 09:20 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

こんばんは

自炊は何かと大変です。

単身赴任中と3年前、かみさんが大病を患ったとき、洗い物は苦になりませんが料理は苦手です。

こちらも気候温暖なせいか、おいしい漬け物に出会いません。

氷がはさまった野沢菜漬けが最高でした。

| inkyo | 2010/03/04 21:31 | URL |

ああ、お葉漬け━

そうですか、
inkyoさんも自炊をされてたことがおありなんですね!
洗い物は苦になりませんでしたか!?
確かに、冬場野沢菜漬けの間や上に
氷がありました。
旨かった!ホントに!

| ウラ | 2010/03/05 06:13 | URL |

自前の糠漬け!

我が輩も漬け物には幼い頃から目がなく、同じ思いを数十年抱いておりました。漬け物にもいろいろ有りますが、数年前ふとしたきっかけから古い糠床、入手、以後注ぎ足し注ぎ足しで自前の旨い糠漬けが何気なく我が家の食卓を毎食演出しています。次回ご馳走いたします。ご期待を!

| haru | 2010/03/09 16:53 | URL |

ヌカ味噌親父!?

haruさん
ありがとうございます!
それにしても驚きましたねぇ!そうですか!
すでに数年前から自前のヌカ味噌を!
いやぁ、恐れ入谷の鬼子母神!さすがですねぇ!
是非、是非、機会がございましたら
その秘蔵のヌカ味噌とやらで
おまんまをいただいてみたいモンです。
是非とも、よろしく━

| ウラ | 2010/03/09 17:51 | URL |















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